個人の感想です。

酒とマンガと嵐があればだいたいしあわせ

私本太平記|吉川英治

吉川英治の著作が青空文庫に!知らなかった~

なんかこの頃にわかに室町時代がアツい!!!(わたしの中で)ので、まず私本太平記

吉川英治歴史時代文庫」版全8冊を各帖ごとに13巻に分冊

合本版と迷ったんだけど、誤字が酷いとか帖の変わり目がわかりにくいとかいうレビューを散見したので、その点不安がなさそうな青空文庫版にした。原本のおそらく誤植までをも注釈で併記する丁寧な編集っぷりが安心♪

 

合戦模様がその場に居合わせたと錯覚するかのような臨場感あふれるさすがの筆致。地理苦手で陣の配置などなかなかピンとこなかったりするんだけど、実際の地形や兵の采配までもありありと目に浮かべられた。とにかくおもしろくて、そしてとくに籠城戦が多く登場するので城にがぜん興味を持った。

のでこれ↓ポチってみたよー。

図解 戦国の城がいちばんよくわかる本

図解 戦国の城がいちばんよくわかる本

 

大河ドラマ真田丸』戦国軍事考証の著者が指南する「土の城」初の入門書!

写真、イラスト満載、ビギナーにわかりやすく、城好きにもなるほどの一冊。

「戦国の城」と銘打ってはいるけど、天守を戴く絢爛豪華な城郭群ではなく土づくりの城ってことは太平記中に出てくる戦略拠点としての山城と近しいのではないかとおもって。届くの楽しみー。

 

残念だったのは足利直義の人物描写にあまり頁が割かれてないこと。

佐々木道誉後醍醐天皇楠木正成は別格としても(それぞれ序中終盤で尊氏との共鳴、対立が描かれる人物)、新田義貞や大塔宮、高師直、どうかすると阿野廉子なんかよりもおざなり描写であったような気がする。

序盤でこそ、隠密働きをする一色右馬介と連携して暗躍してるっぽい様子が伺えるものの、中盤以降、謀を巡らすのはもっぱら尊氏で、直義は一途に敵の殲滅を目指す猛将としてしか描かれていない(常に先を見据え、武田信玄の「五分を上とし、七分を中とし、十分を下とする」のような思想で戦に臨んでいる尊氏にとっては頭痛のタネ)ので、キレ者評価がいまいちピンとこないんだよねえ。

深謀熟慮の兄に対し直情型の弟、という描写も楠木正季と丸かぶりだし。

戦上手ではあるのだけど、大局観に欠けるというか、大望を抱く尊氏の右腕としてはやや心もとないままに対立に突入して終わってしまった。

もしかしたら観応の擾乱あたりでその人柄や思想、政治手腕を深く掘り下げる予定だったのかもしれない。残念至極。

 

湊川帖後半から黒白帖にかけてはとくに駆け足感が顕著で、北畠顕家新田義貞の死、まして後醍醐崩御の段は本来もっと丁寧に描く構想だったのではないかと思われた。

直義追討に際して偽装とはいえ南朝に降伏したのも作中ではわけがわからないままだったし。

じっさい史実で確認できる尊氏の行動って不可解なことばかりで、狡猾な二枚舌の謀将といった考察が多いのね。

どっかで、直冬(尊氏庶子)を直義の養子としたのは直義直系の存続を阻害せんがため(直冬に家督を継がせれば 直義の血筋は傍流に甘んじるほかない)の策略だったのではという説を読んだんだけど、そんな考察もさもありなんと思えるほど。

この私本太平記ではそれを相反するふたつの心のどちらにも正直であった「矛盾の人」と解釈していて、覚一法師の問答を下敷きにしているみたい。

 

引き続き室町ブームなので、この時代のほかの小説を読み漁りたいのだけど、一人物の生涯にスポットを当てたエンタメ小説にあまり興味をそそられなくて。室町時代の面白さって一英傑の伝記より各地の勢力図や中央の権力構造の変遷にある気がするのだよなあ。

ってことでとりあえず

足利将軍列伝 (1975年)

足利将軍列伝 (1975年)

 
室町幕府論 (講談社選書メチエ)

室町幕府論 (講談社選書メチエ)

 

を買ってみた♪

なんかおもしろい好みの小説があればそういうののが読みやすいしいいんだけどなー。